2022年5月14日土曜日

【短編小説】「マイの密やかな陰謀」①

 良くありがちだけど、麻衣子は「マイ」


って呼ばれている。これも良くありがちだけど本人は何も気に留めてない。

 そのマイも今年の春、晴れて高校生に!偏差値的には厳しかったけど、見事合格!皐月の帰路を歩く姿はセミロングをなびかせ、どこか風を切ったような歩き方?に見えなくもない。

 クラスでは、特に陰キャでも陽キャでもなく普通の女の子だと自分では思っている。そんな彼女には誰も知らないルーティンがあった。

「ただいま!」

 学校と自宅の距離は歩いて20分ほど。さほど遠くない。これも彼女の狙いどおり??だ。

「あら、今日は早かったのね。」

「お母さんこそ早かったんじゃない?仕事は?」

 訳あって母親との二人暮らしも5年になる。でも最近、寂しいなんて感情は出てこない。もう慣れっこになったのかなと思う。

 母親は近所づき合いもあまりしない、少し陰のある女性だ。でも、特に嫌に感じたことはない。女手一つで育ててもらっていると内心では感謝している。でもあまり干渉されたくないのが本音だ。

「少し体がきつくてね・・。早く帰ってきちゃった。」

「ふーん。」

と、横目でチラと見ただけで、2階の部屋に上がった。

「あ!あれ買ってきたわよ。机に置いてあるから。」

「ありがと!だけど勝手に部屋に入らないでってこの前も言ったよね?」

 いつも先回りして気を使いすぎ。子ども扱いしすぎ!細かく言えばそんなところが少し気に障る。階段をかけ上る足音も閉めたドアの音もいつになく大きくなった。

「今度こそ鍵つけなくちゃ!」

 そんなマイを笑っているかのように机の上のセントポーリアがたたずんでいた。

 この花は、小ぶりの可愛らしい花びらをつけ、一年中、開花する室内観賞用に適した花だ。寒さにも強くて割と育てやすい。品種改良がなされ、様々な色の種類があるが、今回、母親が買ってきた花は鮮やかなピンク色だ。

「うん!今度のも可愛い。」

 マイは着替えもせず、すぐに椅子に腰かけ、机のセントポーリアとにらめっこを始めた。

「どうか、文化委員長には穂香が選ばれますように・・!」

 その小さな花鉢を両手に包み込み、ジッと凝視し続け、まるで呪文のように何度もブツブツと唱え始めた。

 穂香は、クラスメートだが親友ってほどではない。今度の学級委員改選でマイと穂香が文化委員長にノミネートされたのだ。文化委員長は、合唱コンクール、文化祭など企画・運営を任され、たいへんなお役目を背負わなければいけない。もちろん二人ともそんなのはゴメンだ!

 ・・・・・

 今から約3年前、マイの心は荒んでいた。ちょうど中学1年生の夏休みだったろうか、真剣に自殺だって考えたことがある。好きだったお父さんと別れ、母親との二人暮らしがスタートして間もない頃、誰とも話しをしたくない時期が続いた。もちろん母親とも。そして、夏休みが明けた2学期はついに引きこもり、不登校になった。

 そんな失望の時に、ある雑誌のスピリチュアル系の記事に目が止まったが、それは、(あなたの運勢が好転します。)みたいなコーナーで(自分の好きな花に毎日あきらめずに繰り返し夢を語りかけるといつの間にか実現します!)なんてことが書いてあった。

 完全に胡散臭い!取るにも足らない話だが、何もすることのないマイは、暇つぶしにやってみることにした。

 最初の花は紫色のセントポーリアだったのを覚えている。この時の願い事は、クラスの嫌な男子が消える願いだった。何かにつけて、マイに嫌味を言ってくる。不登校になったのは、多分にその男子のせいもあった。朝から夕方まで、その儀式?は続けられ、マイの顔は頬はこけ、眼下はくぼみ、もともと可愛らしい顔はまるで夜叉のように見えた。まさに鬼気迫るとはこのことだろう。

 それから、数日して、その男子が急な家庭の事情で遠くへ転校になったと聞いた。(願いが叶った!)暗闇に一筋の光が差し込んだようだった。そして、次の願いはクラス担任へとターゲットが絞られた・・・。

            2年生に進級する頃に


は、普通に登校するマイの姿があった。小学生時代のように友達も何人か取り巻いている。

 3年生になるといよいよ高校進学だ。あまり成績は良い方ではなかったが、歩いて通える高校に進学するのが前々からの夢だったので、学力に合わないその高校受験に臨んだが、もちろん密やかなルーティンは更に加熱した。

 ・・・・・・

 なぜか願いが叶うと強いはずのセントポーリアはすぐ枯れてしまう。この不思議な現象もマイの「願望達成力」の信頼性を彼女の中で助長させた。

「大丈夫!今度の願いも叶うわ。今までの達成率は90%以上よ!」

 気付けば、もう1時間が経過している。

「マイ!ご飯よ!降りてらっしゃい。」

 下から母親の呼ぶ声が聞こえた。 →(②に続く)